塩鯖

瀬戸内海から 一歩入った 山里で生まれ育った。

そのころは貧しかったので 日々の食事の副菜は 自分の畑でとれる時節の野菜の煮物が殆どであった。 山里の皆 同じだったと思う。

たまに 食前に上る海の物が この塩鯖であった記憶がある。週に一度か否二週に一度くらいだったかも知れない。 とても美味だった。

幼少の頃に刷り込まれた食への好みは 長じても 消え去りがたく いまでも 時おり 家人に頼んで 塩鯖を焼いてもらう。

其の頃は 曾祖母 祖父 そして 父母と私の五人家族で 農業と林業が生活の糧であった。 皆 一生懸命働いていた。 現在の少しの豊かさと其の頃の貧しさを比して思うと 自然に涙すことがある。

私の遊びは地面に古釘で 列車の線路を描く事だった。

いまでは 塩鯖も遠くノルウェイ産が多いが この食材は遠く古い過去の記憶をよみがえらせてくれる。