スイスの墓

花に飾られて 永眠したい、これが私の夢であり 願いでもある。スイスで見た墓は 多分 故人が好きだったであろう地植えの花で美しく飾られていた。

そこには 厳しい自然の中で さらには 傭兵としか生きるすべしか無かったスイスの人々 そして 死んでいった者に対しての 生者ができうる最大の尊厳が示されている。

日本では 墓地に地植えの花を植えることは凶とされる。が 母が亡くなって 墓に入った時 父はその墓の周辺に皐月の花木を植えた。因習にとらわれなかった父は 母に対する愛を最大限に表現したかったのである。皐月は父が貧しい農業で生計を建ててきたなかで、たとえば イチゴ 葡萄 桃 などの栽培を試み どれも 良い結果を当て得てくれなかった経緯をへて 最後に 花木栽培でやっと 生計の糧にたどり着いた時のもっとも重要な花木であった。 家族 三世代がもっとも幸せだった時期をもたらした花がさつきである。 

現在の墓地に墓を移設して 十数年が経つ。

春には 小高い丘にある墓地全体を野生の躑躅が華やかな ピンクで飾ってくれる。

やっと 父の願いが叶ったような気がする。